名前を教えてあげる。
「お忙しいのは分かりますが、登園は必ず保護者の方とお願いします。
小さなお子さんが犠牲になる事件は、ニュースだけの話ではありません。
身近でも起こり得ますよ。起こってからでは遅いんです」
保育園の園長室で、でっぷり太った園長は厳しい顔で言った。
園長、主任保育士、担任保育士。
電話では強気に出れる美緒も、横並びの女3人と対決するように向かい合っては、うな垂れるしかなかった。
やはり恵理奈は、1人で登園していた。
鍵はダイヤルロック式の郵便ポストに、緊急用として置いてあるものを使い(郵便物を取り出すのは恵理奈の仕事だったから解除番号は知っていた)
給食で使う、コップや箸箱は汚れたまま持ってきていたという。
大人達の深刻な話し合いの間、恵理奈は他の園児達と園庭で遊んでいた。
「昨夜は恵理奈ちゃん1人でお留守番をさせてたんですか?お仕事で?」
「…はい。急に入った仕事で。どうしても人が足らなくて」
40代のベテラン主任の質問に美緒は嘘を吐いた。
「夜勤ということですか?確かカラオケ店に勤務されていましたよね?
24時間営業ということでしょうか?」
彼女の口調は尋問のようで、美緒は不快感を持った。