名前を教えてあげる。
片山は続けた。
「恵理奈ちゃん、こないだ私に言ったんですよ。ママと恵理奈が仲良くすると、パパが怒るって」
「ご主人になられる方と恵理奈ちゃんはうまくいっていますか?
他言は絶対しません。問題があるなら
どうか打ち明けて下さい」
園長が穏やかに言うのに、美緒はにっこり笑ってみせた。
「あの人は恵理奈をとても可愛がっています。ずっと野球をやってたんで、ちょっと礼儀とかに厳しい面もあるけど、心配しないで下さい。
これから私、夜勤は絶対しません。いろいろご心配かけてすみませんでした」
そそくさと帰り支度を始めた美緒を、園長と主任保育士が呆れ果てたような目で見る。
片山だけが立ち上がり、美緒に寄り添うようにして、園長室を出た。
「あ、恵理奈ちゃんのお母さん。恵理奈ちゃん、すごいんですよ。これ見て下さい〜」
片山が美緒を呼び止め、少し戯けた口調で廊下に貼ってあったクレヨン画の一枚を指差した。
拙い落書きのような絵が並ぶ中、木の葉やうさぎをモチーフにしたそれは確かに抜きん出ているのが一目で分かった。
クレヨンの太さ細さ、濃さ薄さを調節して描いている。それは幼児にしては、驚くべき技だろう。