名前を教えてあげる。
18歳の冬・運命を変える出逢い
ーーー5年前ーーー
初めての路上教習だった。
プリウスの運転席に乗り込んだ美緒は、教習カードでパタパタと自分を扇いだ。
「はあ…今日はどんな先生かなあ…」
そわそわと落ち着かなかった。
教習車には何度か乗っているのに、未だにこの瞬間は緊張してしまう。
ここの自動車学校は、教官を指名することが出来なかった。
コンピュータが割り振った教官が嫌な奴だと地獄の50分を過ごすことになる。
それでも、ここを選んだのは、提携する託児所が自宅から近くて通いやすいという理由だった。
昨日の教官は、50代のやたら無愛想な男で、高圧的な態度で「右曲がれ」だの「ハンドルもっと切れ」だのいうものだから、ただでさえ人見知りの美緒は、すっかり萎縮してしまった。
急ブレーキをかけられ、
「馬鹿!寄りすぎだ!」と叱られた時は、涙が出そうになった。
絶対に不合格だと思ったのに、その教官はぶっきらぼうに「はい。いいよ」と美緒の教習カードに合格印を押して、去って行った。
(怒ることが趣味みたいな、嫌なヤツだったなあ…思い出しただけでムカつく!)
今日、受付カウンターで受け取った乗車カードには、『51 星野』と書いてあった。
初めて乗る車の番号と教官だ。