名前を教えてあげる。
「……じゃエンジン掛けて。今日は路上に出るんで」
男は投げやりなかんじで指示し、美緒の教習カードをバインダーにはさんだ。
後ろとサイドは刈り上げているのに、前髪だけは長く、整髪料でふわりと浮かせている。
こめかみから顎にかけて、フェイスラインを強調するように髭を生やしていて、そのせいで細面だが男臭い。
一重まぶたの目はやや垂れ気味で、薄い唇は皮肉めいた言葉を発しそうだ。
不真面目な感じ、が第一印象だった。
(やだな。どうしよ…)
美緒は、こういうタイプがあまり得意ではなかった。
けれど、教習所の外に出た途端、
今までのようにお喋りなんかしている余裕はない、とすぐに気付いた。
一般道路は、他の車や人がいてたくさん信号がある。
「…じゃ、そこ右折。歩行者に注意して」
助手席の窓枠に頬杖を付いた星野という教官は、やる気のない声で指示をする。
「はい!分かぁりました」
緊張して、声が裏返ってしまった。
星野がフッと鼻息を吐くように笑い、美緒は赤くなる。
(もおっ、こっちはパニックなのにぃ!)
ここいらへんは工業団地で、昼前の今の時間は、車通りは少ない。
運転しているうちに緊張も和らいできて、だんだん楽しくなってきた。
それなのに。