名前を教えてあげる。
「….ちょっと、この先で車を脇に停めて」
10分ほどしか経っていないのに、
星野教官は、路肩に車を寄せるよう指示した。
すっかり葉が落ちた銀杏並木の道端で、
「いおべみお…」
脚を組んだ膝にバインダーを載せた格好で、星野は呟いた。
車内に妙な空気が流れる。
(…なんなんだろう、この人?)
教習所時間なのに。美緒は前を見たまま、訝った。
「………もしかして、三田村学園にいなかった?」
「…えっ!」
三田村学園、という星野の言葉に
驚き、美緒は助手席の方に身体を捻る。
怖そうに見えた男は、柔和な笑顔を見せていた。
「あー、やっぱ美緒か。お前、チビだったから、覚えてねえか?星野哲平だよ」
「……きゃああああっ!」
その名前を聴いた美緒は悲鳴をあげ、無遠慮に顔を星野に近付けた。
「ああっ…!やだ、本当だ、哲平だあっ!ヒゲ生やしてるうっ」
懐かしさと嬉しさで美緒は、運転席で座ったまま、ぴょんぴょん跳ねた。
美緒が小学二年の時、哲平は公立高校に通う三年生だった。
9歳も歳が離れている上に、重なる在園期間は1年くらいだったけれど、星野哲平のことは鮮明に覚えていた。