名前を教えてあげる。
「ねねね!哲平、メアド交換しよ!
私、色々あったんだあ。話きいてよ!」
「……そろそろ発進するか。ウインカー出して。サイド確認」
美緒の言葉を無視して、哲平はいきなり、教官に戻り、前を見つめる。
(えっ…教えてくれないの?)
遠回しに拒否され、ショックを受けた。
悲しくて、教習車を降りてしまいたかったけれど、そうもいかない。
哲平の左手薬指には何もなかった。
(彼女がいるから、迷惑なのかもしれない…なら、仕方がないよね……私だって順いるし…)
自分に言い聞かせながら、
ひとつ目の信号をゆっくりと右折した時。
「…この時間合格したら、教えてやるよ」
哲平はバインダーに目を落としたまま言った。