名前を教えてあげる。
ーーもお、びっくりしちゃったあ!三田村学園の人が教官やってたの。
めちゃくちゃ懐かしかったあ、メアド交換したの……
星野哲平に出逢ったあの日。
興奮気味に美緒が帰宅したばかりの順に報告すると、一瞬、順の眉は不快そうに歪んだ。
美緒はハッとした。
てっきり、面白がってくれると思っていたのに……
ーー…それって、もしかして男?
クルクルと丸めたTシャツを脱衣かごに投げ込んだ後、順は低い声で訊いた。
ーーあ〜いや。女だよ、女!決まってるじゃん!
美緒は、なぜか咄嗟に嘘を吐いてしまった。
ちくり、と心が痛んだけれど振り払った。
男だと知ったら、順は面白くないだろう。
順が特に嫉妬深いわけでも、独占欲が強いというわけではない。
でも、若い男の一途さで、
(他の男に少しでも興味を抱く、というのが嫌なんだ…)と美緒は思う。
悪い気分ではなかった。
それは愛されている証拠だ。
それでも、星野哲平との約束を反故にするつもりはなかった。
養護施設という特殊な環境の空気を知っている彼は美緒にとって赤の他人ではなかった。
順には分からないだろう。
嘘を吐いたのは順を愛しているから。
幸せな生活に少しの波風も立てたくなかったからだ。