名前を教えてあげる。
(哲平だ…!サッカーのコーチしてるんだあ)
見事な足捌きでボールを操り、本気で追いかけてくる小学生達をかわす。
味方の子供に正確なパスをすると、受け取った子は、鮮やかなシュートを打った。
小さなゴールキーパーの脇をすり抜けて、黄色と緑のそれはゴールネットに勢いよく吸い込まれて行く。
「やった!やったあ!ゴールじゃん!」
美緒は指を鳴らすジェスチャーをした。
子供達がイエーイ!と叫ひながら飛び跳ねるようにして、哲平のそばに駆け寄り、次々にグータッチを交わす。
(あの頃と同じだあ…)
三田村学園に入ったばかりの頃。
不安な毎日を過ごしてた9歳の美緒を救ってくれたのが、園庭で土日に行われる哲平のサッカー教室だった。
運動神経がいいわけではない美緒に、哲平は「まず楽しむこと」を教えてくれ、美緒はサッカーが好きになった。
哲平が卒園してからも、サッカーがしたかったけれど、女子チームが近くになかった。
電車でわざわざ遠くに通うことなど許されるわけもなく、諦めるしかなかったのも忘れていた思い出だ。
美緒がいることに気付いた哲平が、ピーッとホイッスルが鳴らし、駆け寄ってきた。