名前を教えてあげる。
「哲平、かっこいい!」
手をメガフォンにして叫ぶ美緒に、
「これ着けて入れ!」
哲平はシュッと何かを放り投げた。
「わあっ!」
目の前に、飛んできた黒いものを美緒は咄嗟にキャッチする。
それは、キーパーグローブだった。
「……美緒!ホレ」
ベンチに座る美緒に、タオルを首にかけた哲平がペットボトルを放り投げた。
「…あん!もうすぐ投げるんだから」
キーパーグローブの時と同じようはいかず、それは美緒の手をすり抜けて地面に落ちてしまった。
「トロいな。ちゃんと受けろよ」
哲平が口の端に笑いを含みながらいうのに、美緒は頬を膨らませ
「投げ方が悪いんだよ!」と返した。
美緒の横に腰を下ろした哲平は、ペットボトルのホットレモンを一口飲んだ後、美緒の足元を顎で指した。
「汚れてねえか?」
「あ、うん。平気だよ。芝生だったし。ああ、すごく楽しかった!」
同じホットレモンのボトルを手に美緒が晴れ晴れとした声で言うと、哲平はトレーニングパンツのポケットに両手を入れた姿勢でにこりと笑った。
「ああ。すげえスライディングでゴール守り切ったもんな。やっぱお前、若いな」
「哲平はいつも、ここでコーチしてるの?」
問いながら美緒は、横に座る男を観察する。