名前を教えてあげる。
こないだ教習所で会った時とは違い、哲平の表情はリラックスしていた。ヤギのような無精ヒゲは相変わらず。
「イヤ。久しぶりだね。
教習所は月曜日休みだから。土日休みは滅多にねえし……さみぃから、サッカー休む子供が多くてさ。親が休ませるんだよな。風邪引くってさ」
「ああ、それで私がキーパーに入ったわけね」
美緒に断りもなく、哲平は脇に置いたスポーツバッグのポケットから、煙草を取り出し、口に咥えた。
「助かったよ。ずっとゲームに入ってたら、俺死ぬわ。あいつら、すげえパワーだから」
ふーーっと哲平は、美緒の方に煙がいかないように顔を背けて息を吐く。
紫煙は冷たくなってきた風と一体になって、流されてしまったのに、美緒の敏感な鼻は、わずかに漂うスパイシーな香りを探り当てた。
「久々にボール蹴って、楽しかったな。ボールがゴールに近付いてくると、うわあ、どうしようってマジ怖かったけど〜」
「ハハ…」
哲平は、目を更に細くして頷き携帯灰皿にポンと燃えた先を落とした。
会話をしているのに、さっきからずっと美緒の方を見ようとしなかった。