名前を教えてあげる。
機械部品の工場勤務から始まり、居酒屋、スポーツショップの店員、左官の見習い。スポーツクラブのインストラクター。
自動車学校で教官の職を得たのは、つい半年前のことだ。
[同じ場所にずっと縛られるのが、苦手なんだ]
哲平はメールにそう書いた。
美緒もメールで、自分の事をいろいろ話した。
高校在学中に妊娠してしまい、駆け落ちして、恵理奈を生んだこと。
順の実家と一応和解したけれど、
父親がシンガポールに赴任中なのを理由に、今だに正式な結婚が許されないこと。
順と母親の春香の関係が濃密で、ついていけないこと。
「恵理奈を預かってくれるのは嬉しいんだけど、なんかイヤなんだよね。
内心、赤ちゃん置いて遊びに行くなんて信じられないって思ってそう。
でも、実際面倒見るのは、矢田さんっていう保育士の資格持ってるお手伝いさん。
順によるとウルババ、恵理奈のことずっと抱っこしてるくせに、オムツ替えとかは絶対矢田さんにやらせるらしい。爪が汚れると嫌だからって」
不満げな美緒の言葉を遮るように、哲平はすっと立ち上がった。
「……今度の土曜の夜」
スポーツバッグを肩に掛けながら言う。
「友達がライブやる。お前、来るか?」