名前を教えてあげる。
「俺の地図に結婚ていう文字はねえな。彼女の事は愛しているけど、一生責任は持てない。
それはあいつがフランスに行くって言い出す前に話してあるよ。
どう受け取るかは自由だ。
人はいつ死ぬか分からない。
幸せはいつか終わる。
これが全てだ。俺は何も残したくない。
彼女には、あんたの人生観、可哀想ねって言われたけど。
これ以上の辛い思い出はいらねえ。
楽しめる時に楽しまねえと生きてる意味がない。
弟はそう教えてくれた。
俺は好きなように生きて、誰にも迷惑かけねえようにして死ぬって決めてるんだ…」
そこまで言うと、哲平はそばを通りかかった店員を呼び止め、
「バーボン、ロックで」とオーダーした。
「あっ!私も同じの」
美緒は身を乗り出して言った。
「おい…お前…大丈夫かよ?さっき、スクリュードライバー吹いたじゃねえか」
店員が去った後、哲平は眉を顰めて訊いた。
「大丈夫!さっきはお酒だと思わなかったから、びっくりしたの。
哲平が言ったでしょ?人生楽しまないとだめだって」
美緒は、にっこりと笑った後、哲平の長く骨ばった指から煙草を奪い取った。
「哲平がメッチャ美味しそうに煙草を吸うから、試してみたくなっちゃった!」