名前を教えてあげる。
オレンジジュースをストローでかき混ぜながら、美緒は憂鬱な気持ちだった。
座卓を挟んで向かいに胡座をかく光太郎と、光太郎の隣に座る堀田タケシ。
同じ工業高校の同級生で、やんちゃ仲間の2人は、3杯目のジョッキですっかり上機嫌だ。
時々、肩を組んだりしてじゃれ合い、人目を憚ることもなく大笑いしている。
その姿は26歳の大人には見えない。
高校生のノリだ。
タケシといると、昔に戻るのだろう。
タケシも短髪を茶色く染め、光太郎とよく似たタイプだ。
(類は友を呼ぶ、って本当ね…)
美緒はストローで、ほとんど水になった最後の一滴をちゅっとすする。
少しでも無駄遣いしたくなくて、美緒がオーダーしたのはこれ1杯だけだ。
この居酒屋に来る前に少しだけ残り飯を食べたので、光太郎達の頼んだ料理を少しずつつまんで夕食にした。
『早く帰ろうよ』
言いたいセリフを腹にしまい込んだまま、美緒はため息を吐く。
(恵理奈…お握り、食べたかな?)
家で留守番をしている我が子が気になって仕方なかった。
もう9時を過ぎたけれど、1人きりでは布団に入ってもなかなか寝付けないだろう。
電話したい気もするが、もし寝ていて起こしてしまったら可哀想だ。
3時間ほど前の夕方6時頃。
突然飲みにいきたいと言い出した光太郎は、仕事が早番で帰宅したばかりの美緒に車のハンドルを握らせた。