名前を教えてあげる。
「矢田さんが住み込んで恵理奈の面倒見てくれるって。昔、保母さんだった人だし、おばあちゃんだっている。
2人も育児のベテランがいるんだから、恵理奈は大丈夫だよ…
逢いたくなったら、いつでも逢いに行けばいいしさ」
涙をポロポロこぼして恵理奈に頬ずりする美緒に、順はそう言った。
美緒は「分かった…」と頷き、ようやく恵理奈を順に手渡した。
もし不合格になれば、理不尽にも美緒のせいになり兼ねない。
将来を左右するこの勝負には、万全の体制で挑まなくてはならない。
寂しいのは順も同じだ。
このしばしの別れは、我慢しなければならなかった。
けれど、恵理奈を乗せたゴルフの後ろ姿を見送ったあと、年中無休の育児から解放された喜びが湧き上がってくるのを美緒は否定出来なかった。
しばらく、独身のように気ままに暮らすことが出来る。
恵理奈が肺炎になった時は、夜なのか昼なのかわからなくなるくらい大変だった。その疲れもまだ取れてはいない。
およそ母親らしくない自分に、美緒は、苦笑いせずにいられなかった。
(嫌だあ…私ってば…)
恵理奈と別れてから、5分も経っていないのに、涙で濡れていた頬はすっかり乾いていた。