名前を教えてあげる。
・止められない想い
教習所通いを再開したのは、12月半ば過ぎだった。
幸か不幸か、星野哲平の乗る51号車に当たることもなく、待合室で顔を合わせる程度になった。
哲平とは、あの夜、タクシー乗り場で別れ、それきりだった。
変なことを言ってしまったお詫びのメールをするから迷ううち、恵理奈が肺炎に罹り、自動車学校もずっと休んでいた。
哲平のことを忘れたわけではなかった。忘れたいわけでもない。
むしろ、哲平がアクションを起こしてくれることを密かに期待していた。
許されるものなら、もう一度逢い、キスを交わしたかった。
あの晩の出来事は、切なさと甘酸っぱさを持ち、美緒の胸に生きていた。
……隣りで、最愛の男が寝ていようと。
太陽と月。
美緒は思う。
例えるなら、順は周囲に希望と平和を与える太陽で、哲平は、静寂と自由を与える月だ。
どちらも唯一無二の存在で、その種類の異なる光は、今の自分を照らすのに必要だと思えた。
美緒だって、分かっている。
そんなのは勝手な言い分だと。
左手薬指に嵌るプラチナは、永久の誓いを立てた証しだ。