名前を教えてあげる。


春香からは時々、メールが着て、順の健康管理に充分気を付けろ、だの、生ものは食べさせるな、とか、部屋を乾燥させるな、とか細かいことを指示してきて、うんざりした。

順の母親・春香は息子以上に神経質になっている。それでも恵理奈の写真を添付して、『追伸、とても元気ですよ』とか付け足すところが彼女の要領のいいところだ。


近しい者の協力が必要なのは、当たり前のことだけれど、尽くす役に徹しなければならないのは、正直にいうとしんどかった。


(きっとまた今夜も徹夜で勉強するんだろうな……
なんだか、家にいると気を使い過ぎて疲れる…)


布団の中で、美緒は溜め息を吐いた。



哲平とは、美緒の自宅アパートから少し離れた場所で待ち合わせた。


まだ西の方は茜色が残っているというのに、暗くなりかけた空には、細く弧を描いた月が地上を見下ろしていた。

その月は、美緒を優しく見守ってくれている。


その月は哲平だ。

美緒はこれから、哲平という月に照らされる。


ちょっと影があって。ぶっきらぼうで。
不思議な引力を持つ。

惹かれてしまうのは、憧れているから。
哲平のように何にも執着せず、自由に生きる男に。






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