名前を教えてあげる。
「元々、そんなに食いたくねえんだ。腹減ったと思っても我慢しているうちに、感覚が麻痺してくる。
仕事が休みの日は、面倒臭くて1日何も食わなかったりする……板チョコ一枚で済ますとか」
「えええ〜!私なんか絶対一日、三食、おやつもないとヤダあ!」
美緒は、がっつりハンバーグステーキセットを前に、オーバーに声を張り上げる。
おごってくれる人より、高いものを頼んだりしてはいけないーーー美緒の中の常識だったけれど、哲平には遠慮しなかった。
ライブの興奮がなかなか冷めなかった。
哲平が昔、作詞作曲した曲が演奏されると知って、美緒は頑張って前方に陣取ったのだ。
確かにその曲は、バンドの持ち味とは一風違っていたが、返って意外性に繋がっていた。
ヒューの舌足らずな歌い方では、歌詞はよく聞き取れなかったけれど、耳に馴染む良い曲だった。
美緒との久々の逢瀬を哲平も喜んでくれているのは、間違いなかった。
遠距離恋愛とはいえ彼女がいるのにメールなんかして迷惑だったかもしれない…
逢う前は、そう思い悩んでいた美緒は、今までにない今日の哲平の饒舌さが嬉しかった。