名前を教えてあげる。
あれほど2人の時間を大事にする順だったのに、必要最低限の会話しかしない…
というか、話題がなかった。
もう、順には美緒を構う余裕など皆無だった。
美緒の夜遊びを許したのは、淋しい思いをさせていることに対する順なりの罪滅ぼしなのかもしれない。美緒には、
セックスだけが絆のように思えた。
「あれ?もう帰ってきたんだ。早かったじゃん」
紺のトレーニングウエアの襟を立て、順が驚いたような様子で言った。
年末からずっと順は、このナイキの上下を愛用していた。
モッズコートをハンガーに掛け、美緒はどきりとする。
今日に限って、順が玄関まで出迎えにくるなんて。
「終電ギリギリだっただろ?」
「うん…まあ。やばかったけど、電車すぐに来たから大丈夫……なんだかラッキーだったの。ああ、寒かった。シャワー浴びてあったまろう…
順、ご飯食べたの?」
作り笑顔でいい、風呂場に急ぐ。
「ああ。コンビニでシャケ弁当買った。ホッシーさん、元気だったの?」
風呂場のドアの向こうから、順が尋ねた。
「ああ…あの子はいつも元気だよ。順によろしくって。受験頑張ってねって言ってた…」
蛇口を捻り、熱い湯を流す。