名前を教えてあげる。
もう、寝るだけだと思ったのに……
胸の奥で、面倒臭い、と思うけれど
「わかったあ」と明るく答えた。
順には、ジンクスがあった。
俵型の梅干しとおかかのお握りを食べた次の日はいい点がはじき出されるんだ、という。
風呂から出た美緒は、冷凍ご飯を解凍して、お握りを作った。
お腹が満たされないといけないから、蕎麦のカップ麺も一緒に並べて。そばにいるよ、とゲン担ぎの意味も込めて。
家に帰れば、月は影になり、太陽が美緒の中心になる。
「恵理奈、掴まり立ちしたんだって」
ふいに順が台所に、ふらりと現れた。
恵理奈には、ひと月以上会っていなかった。恵理奈には会いたくても、ウルババの顔など絶対に見たくない。
中里家に会いに行く事は考えられなかった。順は時々、恵理奈に会いに行っていたので、美緒は順の話で恵理奈の様子を知るしかなかった。
「そう。早く会いたいな」
お握りの皿にラップをかけ、言ったけれど、正直言えば、淋しいのと自由でいたいという気持ちが半々だった。
哲平に心を奪われているせいか、恵理奈の事をあまり考えなくなっていた。
「見てみる?今日、実家に寄ったから恵理奈、撮ってきたよ」
順がトレーニングウェアの尻ポケットから携帯を取り出した。