名前を教えてあげる。
「さて、急がなきゃ!」

順がいなくなったあと、美緒は早速メイクに取り掛かった。

お気に入りの赤い花柄の膝上のプリーツスカートに、防寒対策に厚手のタイツを履く。
そして、黒のロンクブーツのジッパーを引き上げた。


美緒が観たい映画に付き合ってくれることになっていた。

SFハリウッド大作のそれは、正月映画の中でも名作と評価が高かった。




「順は映画どころじゃないし、1人きりで、映画に行ったことなんてないから、諦めてたんだ!だから嬉し過ぎ〜
すっごい面白かった〜」


夕方、立ち寄ったイタリアンレストランで、美緒は、主役の俳優の演技のうまさと音楽が良かった、とボロネーゼを食べながら、繰り返し哲平に語った。


哲平は「ああ」とか「うん」とか短い返事をし、不真面目な感じに椅子に腰掛けていた。


美緒が自分のコーヒーにポーションミルクを入れると、哲平は身体を起こし、自分のコーヒーに付いていたそれをひょいと美緒の方へ転がした。


哲平はブラックだし、美緒がカフェオレみたいにするのが好きなのを分かっている。


「使え」

「…うん、ありがと」


哲平のこんな小さな優しさが、しみじみと嬉しかった。

哲平の良さは、逢うたびに増してくる。外見も内面も。


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