名前を教えてあげる。
午後11時過ぎ。
平日だというのに安価な店のためか、まだまだ店は混み合っていた。
タケシは光太郎よりまともな思考をするらしく、
「…俺、そろそろ帰るわ。明日も仕事だし。光太郎、明日、初日なんだから、絶対遅刻すんなよ。
茅ヶ崎駅8時に迎えの車が来るからよ?」と言いながら、立ち上がり、
「奥さん、悪いね」
と美緒に向かって、手刀を切る。
車で送って欲しい、という合図だ。
「ううん、こっちこそごめんね!こうちゃんが無理言っちゃって。
明日、現場で厳しく指導してやって。
久しぶりの仕事だから!」
最後の方は、タケシを引き止めようと彼の腕を引く光太郎に向かって大声で言ってやった。
「…なあ、美緒」
タケシを自宅まで送った後、光太郎は助手席の窓にもたれて、気怠げに口を開いた。
「何?」
ハンドルを右に切りながら、美緒はちらりと光太郎の顔を見る。
とろんとした奥二重の目。
「…ちょっと、ラブホ寄ろうや」
「えっ?やだ!なあに冗談でしょ?こんな時間だよ?」
笑って誤魔化そうとする美緒の黒い綿パンツの太腿に、光太郎は右手をそっと這わせた。