名前を教えてあげる。
「あ〜ベトナム…昔戦争とかあったんだよね?社会科で習ったよ。アメリカとだよね?」
うろ覚えの知識を披露すると、
「ベトナム戦争は70年代に起きた。おまえにしちゃ上出来だな」
哲平はニヤリと言い、赤ワインが1/3残るグラスを片手で揺する。
「あ〜もう、また馬鹿にして……ムカつくなあ。で、いつ、行くの?」
哲平は美緒の問いにすぐに答えず、ワインを一気に飲み干した。
BGMのテノールが間を繋ぐように流れる。
「4月のはじめ」
そう言った後、空のグラスを振り、女性店員にお代わりの合図をした。
「へえ。お土産買ってきてね。置物とかはヤダから」
ベトナムにあまり興味がない美緒は、残り少なくなったレタスの切れっ端にフォークを突き刺すことに集中する。
「土産は買えねえ」
「えっ、なんで?ドケチ!」
「そのまま、向こうに住むから」
哲平の言葉に美緒の手が止まった。
目を見開き、真向かいに座る哲平を見つめる。
「……向こうに…住む?」
意味が飲み込めなかった。
「ああ。向こうで、日本人旅行客の案内をする仕事をするつもりなんだ」
「お待たせしました」
ウェイトレスが美緒と哲平の間に、ワインを置いた。