名前を教えてあげる。
「そんなに自分を卑下するんじゃねえよ。俺だって同じだよ」
哲平は身体の向きを変え、美緒の肩を優しく撫でさすった。
「親もいねえし、なんの取り柄もねえよ。借金ならあるけどな。友だちに飲み代3万ぐらい」
「やだ、借金……」
哲平のジョークに美緒はくすりと笑った。
「こんなことしてたら、フランスにいる彼女に怒られちゃうね……っていうか怒られちゃえ」
美緒は、哲平の細い腰に両腕を廻した。
「俺ら、お互い浮気は黙認することになってるんだ」
哲平の言葉に美緒は軽い衝撃を感じた。
そんなの、信じられない…
美緒は思う。
恋人が誰かとキスをかわし、裸を見せ合うことを許すなんて……
しかし、哲平を嫌悪する気持ちにはならなかった。
美緒の身体に哲平の腕が廻され、唇が美緒のおでこに触れた。
哲平が美緒の耳元で囁く。
「…身体だけの関係でいいって割り切れるか?」
「え…」
美緒は哲平を見上げた。
美緒と哲平の吐く白い息が交じり合う。
冷静に見せていながら、哲平の瞳は落ち着きなく動き、女を欲していることがわかった。
「……それでもいいなら、俺の部屋に来いよ」