名前を教えてあげる。


「そんなに自分を卑下するんじゃねえよ。俺だって同じだよ」


哲平は身体の向きを変え、美緒の肩を優しく撫でさすった。


「親もいねえし、なんの取り柄もねえよ。借金ならあるけどな。友だちに飲み代3万ぐらい」


「やだ、借金……」


哲平のジョークに美緒はくすりと笑った。


「こんなことしてたら、フランスにいる彼女に怒られちゃうね……っていうか怒られちゃえ」


美緒は、哲平の細い腰に両腕を廻した。


「俺ら、お互い浮気は黙認することになってるんだ」


哲平の言葉に美緒は軽い衝撃を感じた。

そんなの、信じられない…

美緒は思う。

恋人が誰かとキスをかわし、裸を見せ合うことを許すなんて……


しかし、哲平を嫌悪する気持ちにはならなかった。


美緒の身体に哲平の腕が廻され、唇が美緒のおでこに触れた。
哲平が美緒の耳元で囁く。


「…身体だけの関係でいいって割り切れるか?」


「え…」


美緒は哲平を見上げた。

美緒と哲平の吐く白い息が交じり合う。

冷静に見せていながら、哲平の瞳は落ち着きなく動き、女を欲していることがわかった。


「……それでもいいなら、俺の部屋に来いよ」







< 263 / 459 >

この作品をシェア

pagetop