名前を教えてあげる。
光太郎が勢いよく伸び上がり、恵理奈のほうへ手を振りかざした。
「言うなって言っただろ!このガキ!」
反射的に恵理奈は頭を抱え、身体を丸めた。
「ち、ちょっと、やめてよ!」
美緒は恵理奈に覆いかぶさるように抱きしめた。
「恵理奈は、小さい女の子なんだから!野球部の後輩じゃないんだよ!こんなこと許さないから!」
美緒の剣幕に気押され、光太郎は手を引っ込め、しばらく睨み合うような格好になった。
光太郎が恵理奈をたたくのは、この半年、何度かあった。
それは手加減されたものであったけれど、光太郎がこの家に居つくまで、大人に手を上げられたことがなかった恵理奈を怯えさせるのに充分だった。
ふん、と光太郎は鼻で息を吐いた。
「恵理奈がナイチンゲールの本、探してたんだ。どうしてももう一度読みたいっていうから、俺が押入れの天袋を開けて探してやった。
そしたら、小さい缶の箱見つけたんだ。なんだろうこれって、開けてみた…
何が出てきたと思う?お前と男がチューしてる写真が出てきやがった」
「……」
それは昔撮った順との思い出だ。
一瞬にして美緒は言葉を失った。
家のことに無頓着な光太郎が、そんな場所を探るなんて……夢にも思わなかった。