名前を教えてあげる。
「……ありがとう」
幼い娘を美緒はぎゅっと抱き締めた。
「ねえ、こうちゃんが捨てた写真、恵理奈のパパの写真でしょ?
こうちゃんに見せてって頼んだら、怒られちゃった。で、泣いちゃったの。見たかったな……どんなお顔してたの…?
恵理奈のパパ」
「あのね」
美緒は恵理奈の頭を撫で始め、黒目がちの瞳を真っ直ぐに見た。
「恵理奈のパパはもう、こうちゃんなんだよ。前のパパは恵理奈がママのお腹にいる時に死んじゃって、お空のお月様になっちゃったって言ったでしょ?
もう帰ってこない人のことをいつまでも考えていても仕方ないもん。
こうちゃんは、恵理奈の本当のパパになろうって頑張ってるんだから、認めてあげてね?」
さらさらした前髪を指で梳かしながら幼い娘に言いきかせると、
「…うん!恵理奈のパパはこうちゃんだね!」
今度は本物の愛らしい笑顔で大きく頷いた。
光太郎が出て行った途端、家の中に平穏が戻っていた。