名前を教えてあげる。
・借用書
借用書
私、野口光太郎は、8月5日、堀田タケシさまより金50万をお借りしました。
返済期限は3ヶ月後の11月末日とします。
くしゃくしゃな紙に書かれた乱雑な文字は光太郎のものに違いなかった。署名欄には、ご丁寧に生々しく赤い拇印まで押されていた。
「美緒ちゃん、呼び出しちゃって悪いね…」
古い歌謡曲が流れる昔ながらの喫茶店でタケシは紫煙を吹いた。
「そんな……50万なんて…信じられない。パチンコでそんなに使っちゃうなんて」
美緒は少し笑って肩を竦めた。
「俺もねえ、友達だから、あいつが変なとこから金借りるよりはましかと思って貸してたんだけど……あいつのパチ好きは病気だね。
……で、俺も最近困ってるんだよね。
ここんとこうちの会社も赤字続きでよ。資金繰り厳しいんだわ。
なんとかやってるけどよ」
タケシはコーヒーを音を立てて啜った。
「ごめんね…迷惑掛けちゃって……でも、今、うちお金なくって……」
光太郎と暮らし始めてから少しばかりあった美緒の預貯金は、あっと言う間に消えてしまった。