名前を教えてあげる。
光太郎が転がり込んでくる前まで、中里家から毎月支払われていた養育費は、親子2人暮らしには充分な額だった。
そのために、美緒はアルバイト程度の仕事で済んだし、母子家庭ながら、お金に窮することもなく貯金まで出来ていた。
養育費の支払いが止まったのは、美緒と中里順の繋がりを嫌がった光太郎が
「自分が養うからもう必要ない。断れ」と言ったからだ。
それなら…と美緒が中里家に仕える弁護士に連絡をし、翌月から通帳に『ナカザトセイイチ』の名が記載されることはなくなった。
別れた当時、順は未成年だったので、順の父が養育費を支払う形になっていた。
(こんなことになるなら、光太郎には内緒で養育費を受け取っておけば良かった……正式に結婚しているわけじゃないんだから…)
後悔しても遅い。
俯いて黙り込む美緒に、タケシは猫撫で声で言った。
「俺にも妻子いるから、美緒ちゃんの気持ち分かるよ。お金のことで揉めるのが1番嫌だよな?」
「…うん」
「顔上げなよ。あんたが悪いわけじゃねえんだし。借金を帳消しにする方法、教えようか?」
「えっ?」
美緒が顔をあげると、好色な笑みを浮かべるタケシがいた。
タバコを立てて持ち、フィルターの先端をテーブルの角にとんとんと打ち付け、
「光太郎が言ってたんだけどよ」
と前置きした。