名前を教えてあげる。
17歳の春
美緒が『三田村学園』に入所したのは、小学2年生の終わりだった。
場所は横須賀。
表裏一体のようにある山に海。
その二階建ての建物は、ちょうど狭間に建っていた。
美緒は17歳で家出をするまでそこで育った。
両親の顔は知らない。
物心ついた時は、三田村学園よりもっと南の方の6畳間が2部屋しかない古びた平屋建ての家に、母方の祖母と柴犬(と美緒は思っていた)ラッキーの2人と1匹で暮らしていた。
祖母の家から、少し歩くと砂浜の広がる海岸に出ることが出来て、無人島の猿島が見えた。
あまり歩きたがらず、迷惑そうなラッキーに引き綱を付けて海辺を散歩させてやるのが幼い頃の美緒の夕方の日課だった。
美緒は、潮風を受けながらその家で8歳まで過ごした。
祖母は気難しい人だった。
美緒が自分の両親の事を尋ねても、
「車の事故で美緒が赤ちゃんの時に死んだんだよ。ちょうどあんたは私が預かっていたから無事だったけどね。
昔の事だ。あまり思い出したくないね」
といって、詳しいことを教えてくれなかった。