名前を教えてあげる。
周囲の客達の視線が一斉に集まり、店内の雰囲気が一変した。
小さな工務店の跡取り息子のタケシはオシの強い男だ。光太郎は、タケシの会社から派遣される形で今の建設現場に入っている。
友達というが、光太郎とタケシの力関係は、仕事が絡むためにタケシの方が上なのは、明らかだった。
美緒の顔に、ふううっと大量のマルボロの煙を吹きかけ、タケシは言葉をつなげた。
「…なら、美緒よ。あんたに仕事紹介するよ。
おっぱい出して、スケベな男と酒飲むの。そこで稼いで金返せよ。身体張れよ。
まあ、高校生の時、中だしされて、ガキ作っちまうやりまんのあんたには、簡単な仕事だろ?」
あたりに知らしめるような声に、周囲がざわめく。
女性客は、皆、眉を顰めていた。
「もう期限はとっくに過ぎてるんだ。ケジメ着けてもらわねえと。このままだと、海に沈むかコレ失くすことになるぜ」
タケシは座った目をして、煙草を持つ小指を突き立てた。
「嫌……」
美緒の脚はガタガタ震え出した。
今まで知らなかったタケシの恐ろしい素顔に、青ざめるしかなかった。