名前を教えてあげる。


恵理奈がそばにいるというのに半分パニック状態の美緒は、その背中に覆いかぶさり、首筋にキスをした。


「借金返して、タケシとは縁を切ろう。あの人と付き合うのはもうやめよ…
他の会社に雇ってもらおうよ……
ね?そうしよう…?」


肩をさすりながら、宥めるようにいうと、光太郎の荒い呼吸は次第に落ち着き始めた。

光太郎だって、分かっている。
一時の感情で、人を殺めることなど許されないと。


「でもよ…どうやって、カネ返すんだよ…返さねえと逃げてると思われるだろ…貯金なんてねえしよ…」


光太郎が下を向いたまま言う。
手にした包丁は、流しに置かれていた。


「うん……」


タケシには利子を3万ほど付けて必ず来月末までには返す、と約束して、あの場で切り抜けたのだ。

解決方法は、どこからか金を借りてきて、タケシに渡すしかなかった。


「母ちゃんは、パート暮らしで金なんかねえし…カードローンなんかから借りたら、自己破産間違いねえし…」


「こうちゃん…」


背中を丸め、情けない声で言う光太郎に美緒は寄り添った。


短髪のパーマヘアを明るい茶に染め、額に剃り込みの後が残る光太郎は、26歳の今でもヤンキーが抜け切らないけれど、根っこは小心で真面目な男だ。




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