名前を教えてあげる。
17歳の初冬。
みどりに付き添われ、産婦人科に行った帰り、私鉄の小さな駅近くにある彼女の自宅へお邪魔したことがあった。


二階建ての古びた一軒家。

その家の二階にある学習机と大きな本棚だけの、女性が主とは思えないみどりの部屋。


腹が大きくなり、どの服もウエストがきつくなってしまった美緒のために、みどりは自分の洋服の中で着られそうなものを選ばせた。


『今、両親は出掛けてるんだよ』と言った。


隙間なく本がびっしりと詰まった本棚の反対側の壁には、イギリスのアイドルグループのポスターが貼ってあり、意外にミーハーな面があるのを知って驚いた。

…そんなことにツッコミをいれる余裕は、なかったけれど。



「……それで。
なぜ、私の事、探しにきたの?」


「あ、ああ…急に思い出しちゃって。
逢いたくなっちゃったの。みどりちゃん、元気かなあって。本当に世話になったのに、今まで何の連絡もしないでごめんね…」


白々しく声がうわずるのを、みどりは三白眼で睨むようにする。


「だからってねえ。いきなり、うちに訪ねてくるなんて…びっくりしたよ。

外出から帰ってきたら、玄関の前に真っ赤なコート着たミニスカートの女の子が立っているんだもん。借金取りかと思ったわ」





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