名前を教えてあげる。


「結婚?してない。興味ない」


みどりは小さく顔を振り、美緒の顔を真っ直ぐに見た。


「……私ね。あんたがいなくなってからすぐに初期の乳癌がみつかったんだ…

あ、同情しなくていい。

三田村学園を退職して、治療に専念したおかげで、一応完治したから。今はうちの近くの学童保育でアルバイトしてる」


「乳癌…!ごめんね」


思わず、両手で口元を覆った。


みどりが痩せてしまった原因が大病だと分かり、ダイエットなどと言ってしまった自分を美緒は恥じた。


「いいよ」


みどりは少し笑った。


「命だけは助かったんだから。
最初に癌と知った時は、なぜ自分だけこんな目に合うんだって荒れたけど。

でも、病気のおかげと言ってはなんだけど、自分にとって何が大切で、何が必要なのがよく分かったから。悪いことばかりじゃなかったわ。

再発の恐れがないわけじゃないから、日々大事にしなきゃと思えるようになった…」


みどりは窓の景色に目を向けた。


葉の落ちた銀杏並木の下を車と人々が行き交う、ありふれた夕暮れの風景。






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