名前を教えてあげる。
「……少しね。3万円…いや1万円でもいいから貸して…って言ったら怒る…かな…?」
美緒が苦笑いしながら、おずおずと言うと、みどりはほおお…とまた変な溜め息を吐いた。
その後、自分の手提げバッグから財布を取り出し、3枚の札を扇状にしてテーブルの上に並べた。
「遅くなってしまったけど、これは出産祝い。剥き出しで悪いわね」
「あ、ありがと〜!みどりちゃん〜!助かるよお」
飢えた動物が、餌にありついた時みたいに、ひったくるようにして金を手を取った。
もう、目的は果たした。
帰ろう。
土曜日だというのに、光太郎は仕事で不在、またもや恵理奈を1人ぼっちで留守番させている。
そそくさと自分の財布の中に金を押し込み、ショルダーバッグを肩に掛ける美緒をみどりは目玉だけで追った。
「私は自分のことで精一杯で、あんたに何もしてあげられないけど」
「あ、ああ?いいよ、そんなん。お金くれたじゃん。あ、そうだ、みどりちゃん、ラインしてる?ID教えてよ」
「…教えてあげるわ。ちゃんと聴きなさい」
みどりはテーブルの上で腕を組む。
「あ、ちょっと待って」
立ち上がりかけた美緒は、忙しなく椅子に座り直した。