名前を教えてあげる。
どうやら、春香は美緒を息子の妻となることを認め、自分勝手に色々考えているらしい。
「うん。いいんじゃない?」
美緒は明るく答える。
お金を出してくれるのは、順の実家だ。
センスが良くて贅沢好みな春香のことだから、こういう場合、彼女の提案に甘えてしまった方がドレスも旅行もマンションも豪華になるに違いない。
純白の長いベールのウェディングドレス。それは、美緒の子供の頃からの憧れ。
ジューンブライド。
6月になったら、スワンの羽根のようなドレスを着て、バージンロードを歩く。白いタキシード姿の凛々しい新郎と腕を組んで。
王子様のような順は、美緒の顔を覆うレースをそっと除け、『美緒、すごく綺麗だよ』と囁く。
そして、結婚指輪をはめたあと、皆の前で熱い誓いのキスを交わす……
「きゃあああ〜っ!」
嬉し過ぎて、美緒はつい1人で悶絶してしまった。
「……ど、どうしたの?美緒?」
食卓テーブルで、ノートパソコンを広げていた順が訝しげな目をした。
「あ、あ、何でもないよ〜なんかあ、春だなあって思って〜」
照れ臭くて、美緒が両手をひらひらさせた時。
ブルル…
Gパンの尻ポケットに入れた美緒の携帯が、かすかなバイブ音を立てた。