名前を教えてあげる。
哲平は、高校1年から3年までの冬休み、毎年スキー場で住み込みのアルバイトをしていた、という。
「え〜、そんなの三田村学園が許してくれるんだあ。私もすれば良かった。
お金なくって、いつもぴいぴいしてたんだもん。
お友達にジュースおごってもらったりしてさ。スーパーのバイトなんて、ちょびっとしか貰えないし〜」
「アホか。適当に親戚の名前とか使って外泊許可取るんだよ。バイトしに行くなんて言うかよ」
哲平は、口の端だけで笑った。
カーラジオでは、お笑いタレントが視聴者から寄せられた馬鹿げた話を次々に披露し、1人で爆笑していた。
でも、それは美緒と哲平にはBGM代りだ。少しも聴いていない。
「ペイもいいし、飯付きで、スキーもボードもし放題。女の子とも出逢える。
最高のバイトだったな」
「信じられない。悪い人ね〜」
美緒は、わざと大きな溜め息を吐いた。
15,16歳の頃、大人達を騙してそんなアルバイトをするなんて、ものすごく勇気ある行動だと美緒は思う。
規則にがんじからめになるのが普通だと思っていたのに、高校時代の哲平に尊敬の念すら感じた。