名前を教えてあげる。
「あ〜やべえ、アイス溶けてきたよ!哲平、ちょっと食べて!美味しいよ」
美緒は、食べかけのそれを哲平の口元に突き出す。
ピンクのとろりとした雫が今にもこぼれ落ちそうになって、美緒はまた「あ〜っ!」と悲鳴をあげた。
「おい、垂らすな!」
哲平は、視線だけは固定したまま顔を美緒の方に寄せてソフトクリームを舐めた。
「お前なあ、トイレ休憩で寄ったパーキングでアイスなんか普通、買うか?
マジめんどくせえ女だなあ…」
哲平がさも呆れた風に言う。でも、目は笑っていた。
「うるさいな、食べたかったんだからいいでしょ!」
美緒も笑いながら、言い返す。
こんな半分口喧嘩みたいな会話は、順とは絶対しない。
順は、美緒に対して乱暴な物言いは決してしない。
『お前』なんて呼ばれたことだって、今まで1度もなかった。
哲平が友人から借りた軽のワンボックスカーに乗り込み、深夜出発した。
この日の為に、哲平は美緒に可愛いスノーボードウエアとお揃いのキャップを買ってくれた。
『19歳の誕生日のお祝いだ』と言って。
スキーショップでいくつか試着した後、2人して選んだジャケットは、スモーキーピンクに色とりどりの小花を散らしたプリントで、普段着としても使える。