名前を教えてあげる。


順も『すごく似合うよ』といってくれた。
もちろん、他の男に買ってもらったことはトップシークレットで、自分で安く買った事にしていた。

ボードやブーツなどの道具類は、スキー場で借りる。
哲平とスノーボードに行くのは、これが最初で最後なのだから、買うのは馬鹿げている。

美緒は、自分の化粧道具や着替えをを詰め込んだ小さなボストンバッグだけを持ってくれば良かった。

哲平はボードも全部自分のものを用意していたから、シートを倒した狭い後部座席はモノで一杯だった。


「ねえ、コレってば、むっちゃ可愛い!
哲平……いろいろありがとうね。本当にありがとう…」


美緒は、左手首に新品のスポーツウオッチを巻き付けた後、改まって礼を言った。

女性に人気のあるメーカーの時計で、ベルト部分はシルバーで文字盤はすみれ色。

ウェアを買った後、哲平の買い物で電機屋に寄った。
通りすがりに時計のショーケースを眺めた時、美緒が何気なく『これ欲しいな』と言ったのを哲平は覚えていて、ネットで購入してくれたのだ。


「あ?いいよ」


哲平はこともなげに言う。
美緒の左手薬指が指定席のプラチナのリングーーー
それは外され、ポーチの中に仕舞われていた。




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