名前を教えてあげる。


哲平と逢う時は、いつも。
なんとなく、それが礼儀のような気がしていたから。

車内で、哲平の左手はハンドルではなく、美緒の右手をずっと握っていた。
親鳥が卵を温めているように、そっとかぶせるようにして。

煙草を吸う時とETCが使えない料金所を通る時だけ、2人の手は離れた。


「トンネルばっかりが続くね、なんか怖い!」

「ああ。こんなところで事故ったら最悪だな……」


オレンジ色のライトが次々に前方から飛び出すように現れては頭上を掠めていく、フロントガラスの景色。



ーー俺のことは気にしなくていいよ…


ふと、美緒の脳裏に順の声が蘇った。


ーーただの風邪だし。
薬飲んで寝てれば治る。楽しんできて。



今朝、順が体温を測ると39度もあった。
ボサボサの髪で真っ赤な顔をした順は、咳をしながら美緒を見送った。


順には申し訳ないけれど、旅行を簡単にキャンセルするわけにはいかないのだから仕方ない。

一緒に旅行する相手は休暇を取り、宿は既に予約してあるのだから。


病気の順の事は、とても気がかりだけれど、考えてもどうしようもない。

食べるものは、冷蔵庫にヨーグルトやオレンジ、冷凍食品のパスタや讃岐うどんが入っている。すぐ食べられる菓子パンもいくつか買っておいた。





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