名前を教えてあげる。
ーー大丈夫。子供じゃないんだから、
ひと晩ぐらい自分でなんとか出来るよ。どうせ食欲ないし。
せっかく計画立てたんじゃん。行きなよ。
ホッシーさんによろしく言っておいて。
気にしないで旅行に行っていい、と順自身が言ったのだ。
今は、刹那の恋を楽しむべきだ。横にいる哲平の事しか考えないようにしよう。
やっと、トンネルを出たかと思った途端、車は速度を緩めた。
「ばかやろ…こんな時間に道路工事なんかしやがって….」
哲平の忌々しげな声で美緒は、ハッと我に返った。
いつの間にか黙り込んでしまっていた。
前方で、黄金色のライトがピカピカと光っていた。
けたたましく、落ち着きのないその光。
それをぼんやり眺めているうち、美緒の思考は享楽的になる。
催眠術にかけられたように、光の瞬きの虜になる。
光は雄弁に語る。
今、この時は一生に一度しかない。
隣にいる男は、一瞬の幻に過ぎない。
いい事だろうがそうではない事だろうが、命あるうちに今を楽しめ……と。
(……そうだよね)
その声に張り合うかのように
美緒は賭けをしたくなった。
とても馬鹿げた賭け。