名前を教えてあげる。
「………ねえ、哲平」
「なんだ?」
「…フランスの彼女と美緒。
今はどっちが好き?」
哲平と関係を持ってからは、壊れ物扱いの話題。痛手を負うかもしれないのに触れずにはいられなかった。
「えっ…」
哲平の口は少し開いたままになった。
「答えて?」
最愛の男を欺くほど、哲平が価値のある男なのか見極めたかった。
哲平の答えが気に障るものだったなら、今すぐにでもこの関係に終止符を打とう。この車から逃げ出そう。
「……あいつとはフェイドアウト。
女は、お前しかいらねえ」
小さな声で哲平は言った。
オレンジ色のライトに照らされたは横顔はなぜか泣き出しそうに見えた。
「お前みてえに俺は器用じゃねえよ」
「……」
哲平の大きな手のひらから、温かい体温が伝わってくる。
ーー賭けに勝ったのかな…
予想以上の答えに戸惑う。
ーーこれは、愛を告白されたのと同じなのかもしれない……
そう気付いた途端、嬉しいような逃げ出したくなるような複雑な想いが、美緒の胸の中でぐるぐると渦を巻く。
「あっ、発見!
哲平の爪って、丸っこくて可愛いねえ〜食べちゃいたいな!」
冗談めかして、9歳も年上の哲平をからかったのは、このままでは、息苦しくなりそうだったから。