名前を教えてあげる。


「ハハ、
腹減ってるなら、食っていいぜ」


哲平がいつもの哲平に戻って、ニヤリと笑う。


「わあい。じゃ、頂きまーす!」


悪ノリして美緒は、哲平の左手の親指をぱくりと口に中に入れた。






「美緒、着いたぞ、起きろ!」


助手席の窓にもたれ、いつの間にか眠ってしまっていた。
哲平に揺り起こされた。

口の端に溜まった涎を美緒は、しゅるっと飲み込んだ。


「あ〜そんな怒鳴んないでよ、鼓膜破れる…もう、ちょっと首痛いし……
うわあ!」


眠い目をこすりながら、車を降りると朝もやの中に白銀の世界が広がっていて、美緒は歓声をあげた。


「めちゃくちゃ、楽しそう〜!やばいよ、こんな一杯の雪、初めて!」


頬を突き刺すような寒さなんか、吹き飛んでしまう。両腕を広げて、サクサクの雪の中をくるくる回った。


「勝手に身体が踊り出しちゃう!」


美緒ははしゃいで言った。


スキーもスノーボードもしたことがない美緒のために、哲平はファミリー向けのスキー場を選んでくれた。

ボロいロッジに泊まると思い込んでいたのに、哲平が密かに予定変更して予約をしたのは、リゾートホテルの8階にあるツインルームだった。





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