名前を教えてあげる。
1階にある大浴場は、美緒のリクエストした天然温泉。露天風呂もある。
平日だけれど、春休みなので、ホテルのロビーは若者やファミリーで賑わっていた。
特に4基のエレベーター前は、着膨れしたスキーヤー達でたいへんな混雑だった。
ぎゅうぎゅう詰めのエレベーターの中で、美緒は怯える猫のように哲平にしがみついていた。
哲平と一緒にいる時は、甘えたくて仕方なかった。
哲平の胸に耳を当て、衣服越しにかすかな心臓の音を聞いていると、心から気持ちがやすらいだ。
全ての外敵から美緒を守るように、哲平の右腕も美緒の腰にしっかりと回されていた。
「シャワー浴びようか……」
部屋の内鍵を閉めるなり、哲平は美緒を後ろから抱き締めた。
「あん、駄目だってば……一休みしたらゲレンデに行きたいよ…」
ここで許しては、せっかく早朝に着いたのに、スノーボードを始めるのがうんと遅くなってしまう。