名前を教えてあげる。
・雪の断章
午前中は限りなく平坦に近い斜面で、基本的な滑り方を哲平から教わった。
何度も転んで、美緒のおでこにはじんわりと汗が滲む。
やっと少し滑れるようになった昼頃、リフトに乗った。
「何〜コレ!すげえ綺麗!
ちょ、ちょっと、哲平!
わざと揺らしてない?結構揺れる〜落ちたら、どおしよお〜?
めちゃくちゃスリルあるよ〜お!」
リフトからの絶景と地面との微妙な高さに美緒は、きゃあきゃあ歓声をあげた。
「お前、マジ、うるせえよ」
哲平が眉を顰める。
でも、そう言ったあと、美緒の方に身を乗り出して2人は軽く唇を重ねた。
「空中キスだね」
美緒が笑うと、哲平も分厚いスキーグローブの手で照れたみたいに鼻を掻いた。
気が付けば、青空だったのが、だんだん曇ってきて、ゲレンデに着いた途端に春の雪が舞い始めた。
それでも、山の中腹からの眺めは素晴らしく、美緒はしばらくの間、立ち尽くす。
「うわあ、すご〜い!」
何もかもが感動的だった。
こんなに綺麗な冬山の景色を自分の目で見たのは初めてだ。