名前を教えてあげる。
遥か彼方の麓には、小さなジオラマみたいなホテルーーー美緒と哲平が今夜過ごす予定のーーーが見えた。
雪化粧をした雄大な山並みに、砂糖菓子みたいな針葉樹の林。
あれほどホテルは混んでいたのに、初心者向けのゲレンデには、ほとんど人影かないのが嬉しかった。
「わああ、気持ちいい〜」
粉雪の舞う中、ボードを放って美緒は、ふかふかの雪に寝転がった。
グレーの空からひらひらと羽根のような雪が落ちてきて、美緒のまつ毛やカサカサした唇に落ちる。
「ああ、最高だなあ」
哲平も美緒の隣に寝転んで、空を見上げた。
「ね、ね。知ってる?
雪の結晶ってね、同じ形が2つとしてないんだって。すごいと思わない?
ぜーんぶ、オンリーワンなんだよ!」
美緒が少し得意げに言うと、哲平はふふん、と鼻で笑い、
「お前にしちゃ、よく知ってんな」
と上を向いたまま、いつもの調子でからかった。
「あーん」
美緒は仰向けになったまま、口を大きく開けた。
「……何やってんだ?」
哲平が横を向き、訝る。
「新鮮な雪食べてるの!」
「クッ…ガキかよ、お前」
「哲平もやってごらん、美味しいよ……あっ!」
美緒は、いきなりケラケラと笑い出した。