名前を教えてあげる。
「……あ?なんだよ?」
眉をさらに顰める哲平の口元を指差し、美緒は笑いが止まらなくなる。
「あはは、哲平のお、お髭に雪の結晶が乗っかってるんだもん……アクセサリーみたい…て、哲平っ…おしゃれ〜……」
「馬鹿なこといってんじゃねえよ…」
お腹を抱える美緒の頬に、哲平は雪に片肘をついて優しく触れる。
空に向かって舌を出していた美緒は、前髪にたくさんの雪粒を宿らせた哲平がとても切なげな顔をしているのに気が付き、笑うのをやめた。
「どうしたの……?」
哲平は美緒の問いに答えず、
「別に…」
といつものセリフを吐く。
数分の間にも、粉雪が美緒と哲平の全身に降り積もる。
(そんな目をするなんて…
反則だよ、哲平)
美緒は哲平が何を望んでいるのか、薄々気付いていた。
でも、それに触れる気はなかった。
「…よっしゃ!」
哲平は仰向けのまま、スキーグローブの手でガッツポーズをした後、かばっと身を起こす。
「おら、滑るぞ!立てよ!」
そういって、自分のスカイブルーのウェアに付いた雪を振り払った。