名前を教えてあげる。
「高校卒業してから、自動車工場で働いてたろ?
自分が機械の一部みてえになった気がして、突然、嫌気がさした。
朝、バッと起き上がって、会社に『辞める』って電話して、そのまま沖縄便に乗った。
寮に入ってたから、金、結構溜まってたし」
「ふうん……すごい行動力…」
三田村学園を出てから、自分1人の力で人生を切り拓いていった哲平を、美緒は心から尊敬すると共に羨ましくも思う。
…恵理奈がお腹に宿らなかったら。
自分も哲平のように寮に入って仕事をし、自分の意志で何かを決め、夢を持つことが出来たのに………
恵理奈がそばにいない今、お腹を痛めて生んだ子なのに、美緒の中で存在感が希薄だった。
去年、恵理奈が中里家に預けられて、初めは淋しくて泣いていたけれど、哲平に心奪われてからはあまり考えなくなかった。
(…母性が欠けているんだ、私…)
今はアナザーワールドのミオだ。
哲平が異国に旅立った後。
自分はどこかの教会で結婚式をあげる。
ロマンチックなウェディングドレスを着て、ライスシャワーを浴び、カトレアとすずらんを使った豪華なブーケを青空に向かって放り投げる。