名前を教えてあげる。
そんなの分かってる。
でも、感情は自分ではコントロール出来ない。
ましてや相手が想いに応えてくれたなら、走り出すしかない。
「いい曲だね……感動しちゃった」
まばらな拍手の中、美緒は横の哲平の顔を見上げた。
「ああ…」
哲平の横顔の瞳は潤み、黒曜石のように輝いていた。
「ね、哲平、夜、カラオケルームに行かない?ロビーの案内にカラオケあるって。哲平の歌、聴いてみたいなあ」
「…じゃ、待っとけ」
美緒のリクエストで、哲平はロビーに美緒を待たせてレジャー案内のカウンターに向かった。
1人残された美緒は、ソファに腰掛け、小さなショルダーポーチから携帯をとりだした。
待ち受け画面には、生後6ヶ月の恵理奈を抱っこする順が爽やかな笑顔を見せている。
恵理奈が初めて1人でお座りが出来た日に撮った写真で、美緒のお気に入りだった。
ーーすごい、すごい!っ私が叫んだら、恵理奈がビックリして後ろにコテン、ってひっくり返っちゃったんだよね…順が素早く恵理奈の頭を支えてくれたっけ……
そんなことを考えながら、左右の親指を使う得意の両手打ちでメールを打つ相手は、限りなく優しい婚約者。
[じゅん、無事に着き、スノボやってるよ^ ^
少し滑れるようになったよ〜
熱は下がった?
何か食べた?
ごめんね、じゅん風邪なのに…
なるべく早く帰るからね!]