名前を教えてあげる。
ーーでもさ、試合中に相手選手と激突しちゃってさ、膝を痛めちゃったんだよ。
で、思い切り走れなくなって。このまま激しい運動を続けたら、ちゃんと歩けなくなるって医者に言われて。二年生の終わりに引退したんだ。潮時だったと思うよ……
まだ付き合っていない頃、休憩時間に順はいきなり自分の話をした。
美緒がどんな人間なのかよく知らないのに。
順は、人見知りしない性格だった。
挨拶の時も人の名前を呼んだ。
「山田さん、お疲れ様です!」
「原田さん、こんちわっす」
入店して間もないのに、美緒にも、
「五百部さん、今日早いね」
と爽やかに笑いかけてくれた。
連なった買い物カートを運びながら。
仕事の覚えも良く、手際も良かったから、パートのおばさん連中は彼を褒め称えた。
レジが済んだのに、杖をついたお婆さんの買い物をせっせと袋詰めして長蛇の列を作ってしまったり、時々、張り切り過ぎて失敗してしまうこともあったけれど。
完璧過ぎないことが、返って順の好感度を上げる結果になっていた。
何人かいるアルバイトの女子高生達は皆揃って、順の噂をし、彼と同じシフトに入ろうとした。