名前を教えてあげる。
動く絵文字を駆使したメールを送信した時。
誰かが、ポン、と美緒の肩を叩いた。
「予約取れたの?」
哲平かと思った美緒が振り向くと、ソファの背の後ろに見知らぬ30代前半と思しき男が立っていた。
臙脂のハイネックセーターの腹を突き出した小肥りの男は、今時、あまり見かけないパイロットタイプのサングラスをカチューシャみたいに頭に載せていた。
「どうも。あなた1人?」
男の声は甲高く間抜けだった。
ナンパだ、と美緒は瞬時に理解した。
ーーこういう時、邪険にすると逆ギレして嫌な捨て台詞をはくやつがいるんだよね。かといって、ヘラヘラするのもダメだけど…
高校時代から、私服で歩いているとたまに男に声を掛けられることはあった。(但し、おじさんばかり)ナンパにはまあまあ慣れているつもりだった。
美緒は「違います」と少し丁寧に答えた。
こんなスキー場に1人でくる女なんかいるはずがないのに、と内心笑ってしまった。
「はは。彼氏と一緒でしょ?
僕、さっきからあなたのこと見てまして。こういう者です……
ちょっとまってね」
男はノリのいい感じを出そうとしてるのか、落ち着きなく身体を揺らしながら、スラックスの尻のポケットを探った。