名前を教えてあげる。
(明日、家に帰ったら、体調が良くなった順にエッチしたいって言われるかもしれないのに……)
哲平に対して腹が立った。
(でも、いいや。生理になっちゃったって言えば…)
順は美緒の気分が乗らない時、決して無理強いしない。
ベッドルームに戻ると哲平が裸の上半身を起こして、煙草を吸っていた。
「あ、起きたんだ。私も煙草、ちょっと吸いたい!」
美緒が甘えると哲平は、無言で吸いさしを寄越した。
「何時だ…?」
哲平はくしゃくしゃの髪をさらにくしゃくしゃにするようにして掻き毟る。そんな仕草が魅力的だった。
「もう10時過ぎたよ」
ふうう、と軽く煙を吐き、精一杯に慣れた仕草を演じてみる。
そうすると哲平に似合う大人の女になれた気がするから。
哲平は疲れ切ったように、溜め息だけを吐いた。
「疲れたの?」
「いや…別に」
「うそ。疲れるくせに。ずっと車運転してたし」
美緒は哲平の身体に手を回し、肩に顔を埋めた。哲平の汗の匂いを思い切り吸い込む。
何も着けていないはずなのに、かすかにウルトラマリンの香りがする。
本当にこの男が好きだ……と思う。
例えば、出逢う順番が違ったら、
同じ傷を持つ哲平を迷わず選んでいただろう。